§この章を読む前に
セットアップの話は後回しにします。先に、私がコーチングの現場で実際に見てきた「AIが入った後の会社」を3つ紹介させてください。ここが腹に落ちていないと、この後の地味なインストール作業は続きません。
ある事業会社の経営者は、朝いちばんにAIからの報告を読むところから一日を始めています。本人が寝ている間にパソコンが動いて昨日の数字を集め、席についたころにはレポートがチャットに届いている。この方はあるセッションで「もう仕事がなくなった」という趣旨のことを言いました。
拾い集める作業が一日から抜け落ちて、判断だけが残ったからです。かかっている費用は月数万円のAI利用料と、最初のセットアップに使った十数時間だけでした。作り方は第6章で扱います。
広告運用をしている会社では、新規のランディングページ制作が5日で「方向性OK」まで進みました。通常なら30万円・2週間かかっていた工程です。やったことは、AIにデザイン案の画像を先に全部起こさせて、その画像どおりに実装させただけです。外注の見積もりを待つ時間が、まるごと消えました。これは第8章で扱います。
議事録も同じです。1時間の会議を録音しておけば、文字起こしをAIに渡すだけで30分以内にたたき台が出てきます。朝礼・週次ミーティング・1on1の議事録をこの形に切り替えた会社では、責任者本人が「会議中の集中力が上がった」と言っていました。メモを取らなくていい会議は、会議そのものの質が上がります。これは第5章です。
どれもエンジニアを雇った会社の話ではありません。経営者本人が、自分のパソコンで動かしています。そして入り口は全部同じで、「Claude Code」という道具ひとつです。この第0章では、それをあなたのパソコンで今日動く状態にするところまでを扱います。所要15分、専門知識はいりません。
§0-1 Claude Codeとは何者か
一言でいうと、日本語で指示すると、あなたのパソコンの中で実際に手を動かしてくれるAIです。
ChatGPTやブラウザ版のClaudeは「会議室で相談する相手」です。資料を渡して意見をもらう。返ってきた文章をコピーして、自分でファイルに貼り付ける。ここまでが仕事です。それに対してClaude Codeは「同じ机に座って一緒に作業する同僚」です。
あなたのMacの中のフォルダを直接開き、ファイルを読み、書き換え、保存し、必要ならスケジュール設定まで自分でやります。「昨日書いた台本を修正して」と言えば、該当ファイルを探して直して保存するところまで一人で終わらせます。冒頭に挙げた朝のレポートも、LPの実装も、議事録のたたき台も、AIが自分でファイルを触れるからこそ成立します。ここが決定的な差です。
なお、名前に「Code」と入っていますが、あなたがプログラムを書く必要は一切ありません。書くのはAIです。あなたは日本語で頼むだけです。
§0-2 最小セットアップ(15分)
やることは4つだけです。順番に進めてください。
1. ターミナルを開く
ターミナルは「文字でパソコンに指示を出すための画面」です。黒い画面が出てきますが、怖がる必要はありません。ここに文字を貼り付けてEnterを押すだけです。
- Macの場合: キーボードで
command+スペースを押すと検索窓(Spotlight)が出ます。「ターミナル」と打ってEnter。 - Windowsの場合: スタートメニューで「PowerShell」と検索して起動します。
2. インストールする(コマンド1行)
出てきた画面に、下の1行をコピーして貼り付け、Enterを押します。
- macOS / Linux / WSL の場合:
curl -fsSL https://claude.ai/install.sh | bash
- Windows(PowerShell)の場合:
irm https://claude.ai/install.ps1 | iex
文字がずらずら流れますが、読まなくて大丈夫です。止まったら完了です。
3. 作業する場所(フォルダ)を作って、そこで起動する
Claude Codeは「今どのフォルダにいるか」を基準に動きます。デスクトップに新しいフォルダを1つ作り、そのフォルダを指定してから起動する、と覚えてください。ターミナルに次の2行を順に入れます。
Macの場合:
mkdir -p ~/Desktop/claude/001_test
cd ~/Desktop/claude/001_test
Windows(PowerShell)の場合:
mkdir $HOME\Desktop\claude\001_test
cd $HOME\Desktop\claude\001_test
ここで出てきた言葉を3つだけ説明します。コマンド(ターミナルに打ち込む、パソコンへの命令文のこと)のうち、mkdir はフォルダを作る命令、cd(チェンジ・ディレクトリ)は指定したフォルダに移動する命令です。
先頭の ~(チルダ)は、あなた専用の一番上のフォルダ(ホームフォルダ)を指す記号で、~/Desktop/claude/001_test は「デスクトップの中のclaudeフォルダの中の001_testフォルダ」という意味になります。移動したら、次の1語を打ちます。
Windowsでは、~ はおおむね C:\Users\ユーザー名 に相当し、PowerShellでは $HOME と書けます。
claude
4. ログインする
初回はブラウザが開いて、ログイン画面が出ます。普段Claudeを使っているアカウント(なければ新規作成)でログインし、画面の指示どおりに許可すれば完了です。ターミナルに戻ると、AIが入力待ちの状態になっています。ここから先は、日本語で話しかけるだけです。
§0-3 料金プラン — どれを選べばいいか
Claude Codeは、Claudeの契約プランに含まれています。無料プランでは使えませんので、ここだけは有料契約が必要です(2026年8月10日時点の公式表記)。
| プラン | 料金(米ドル・月あたり) | 位置づけ |
|---|---|---|
| 無料 | $0 | Claude Codeは使えない。ブラウザ版のみ |
| Pro | 年払い $18 / 月払い $22 | まずはこれ。この教科書の内容はProで一通り試せます |
| Max 5x | $110 | 毎日長時間まわす人向け。使用量の上限が5倍 |
| Max 20x | $220 | 本格利用。自動化を常時走らせる段階になったら |
金額はすべて米ドル表記で、日本から契約すると消費税10%が別途加算されます(例: Pro月払い $22 → 税込 $24.2 相当)。円での請求額は、その時のカード会社の為替レートで変わります。
もう1つ、よく混乱するところを先に整理します。サブスク(定額)とAPI従量課金は別物です。
- サブスク(Pro / Max): 毎月決まった額だけ払う契約。使いすぎても請求が跳ね上がることはなく、上限に当たると「時間をおいてください」と止まるだけです。安心して踏めるアクセルだと思ってください。
- API従量課金: API(=プログラム同士をつなぐ窓口。AIの機能を、自社のシステムやツールから直接呼び出すための入り口)を使って、使った分だけ払う上級者向けの契約です。自分でAPIキーを発行して設定しない限り、発生しません。この教科書の第9章で扱う「金額に上限をかける」話は、こちらの契約を始めた人向けの守りの話です。今は気にしなくて大丈夫です。
まずPro。これで足りなくなったらMaxに上げる。この順番で問題ありません。
§0-4 よくある不安に、先に答えます
初回のコーチングで、ほぼ全員から同じ3つを聞かれます。先に答えておきます。
「勝手にファイルを消されたりしませんか?」
しません。Claude Codeは、ファイルを書き換える・作る・消す・コマンドを実行する、といったあなたのパソコンに影響が出る操作の前には、毎回あなたに許可を求めます。画面に「これをやっていいですか」と出て、あなたがYesと答えるまで止まります。慣れてくると毎回聞かれるのが煩わしくなるので、第1章で「自動承認モード」の安全な使い方を扱いますが、最初は1つずつ確認しながらで構いません。
「会社の情報を渡して大丈夫ですか?」
Claude Codeはあなたのパソコンの中で動き、あなたが見せると決めたフォルダの中だけを見ます。フォルダの外を勝手に漁ることはありません。また、入力した内容をAIの学習に使うかどうかは、Claudeの設定画面(プライバシー設定)で確認・変更できます。契約前に不安があれば、そこを先に見てください。もう1つ実務的な鉄則として、APIキーやパスワードのようなものは、ファイルに直接書かない運用にします。これは第9章で扱います。
「壊してしまったらどうなりますか?」
被害は、あなたが作業しているフォルダの中に限定されます。だから最初に ~/Desktop/claude/001_test のような練習用のフォルダを1つ切ってから始めるのです。さらに、第1章でGitHub(作業の履歴を保存しておく場所)に繋ぐところまでやると、「昨日の状態に戻して」の一言で戻せるようになります。壊すのが怖い人ほど、早めに履歴を残す仕組みを入れてください。
Windowsの場合は、同じ練習用フォルダを $HOME\Desktop\claude\001_test のように作れば同じ考え方で進められます。
§0-5 最初の5分体験
インストールが終わったら、いきなり本番の仕事に使わないでください。まず、壊しても何も困らない場所で「AIが自分のパソコンを触る」感触を掴みます。ここで一度「おおっ」と思えるかどうかが、続くかどうかを分けます。
§0-6 つまずいたら
ここが、非エンジニアの方に一番伝えたい話です。
エラーが出て赤い文字が並んでも、自力で読解しようとしないでください。その画面をスクリーンショットで撮って、ChatGPTかClaudeに貼り付けて「これはどういう意味で、次に何をすればいいですか。パソコンに詳しくないので、打つコマンドをそのまま教えてください」と聞けば終わりです。文字をコピーできるなら、コピーして貼り付けるだけでも構いません。
この教科書全体を通じて何度も出てきますが、分からないことをAIに聞く癖そのものが最初のスキルです(第3章で詳しく扱います)。詰まった時に人に聞ける相手を探す必要はありません。目の前にいます。
もう1つだけ。AIの出力は、最後に必ず自分の目で確認してください。 AIは99%正しくても、1万回動かせば100回は誤ります。事業では、その100回が致命傷になる場面があります。この教科書のすべての型は「人間が最後にチェックする」前提で設計されています。
§0-7 次にどこへ進むか
ここまでで、あなたのパソコンにAIが住み着きました。次の一歩は、性格で選んでください。
- 手を動かしながら覚えたい方 → 5分で体験できるクエストへ。1つ5分の小さな課題を、ゲーム感覚で順にクリアしていく形式です。最初のクエストは「今日の仕事の相談を1つ、AIに投げてみる」だけです。
- 仕組みから理解したい方 → そのまま第1章へ。フォルダの切り方、GitHub、常時起動マシン、自動承認モードと、環境を本格的に固めていきます。
どちらから入っても、行き着く先は同じです。迷ったらクエストを1つだけやってから、第1章に戻ってきてください。
ただし最初の一歩はどちらでも同じ——プロジェクトのフォルダに CLAUDE.md という方針ファイルを1枚置き、AIに「うちは何屋か」を覚えさせることです。貼るだけの雛形は第2章2-1節に置いてあります。