§この章で扱うこと
第1章でClaude Codeを触れる状態にしました。ここからが本題です。多くの方がここでつまずきます。「インストールしたのに、出てくる答えが微妙。web版と変わらない気がする」——この壁にコーチング現場では毎回ぶつかります。
原因はほぼ一つ、AIに前提を教えていないことです。会社が何をしていて、どんな体制で、どんなトンマナか、を教えないまま質問するので、AIは「一般的な回答」しか返せません。生成AIの性能は「モデルの賢さ」ではなく「与えた文脈(コンテキスト)の質」でほぼ決まる、と考えてください。
そこで登場するのが三層設計です。CLAUDE.md(憲法)、.claude/rules/(法律)、スキル(わざマシン)。この三つを積み上げると、Claude Codeは「毎回説明しないと動かない道具」から「あなたの会社を理解している同僚」に変わります。Claude Codeは育成ゲー、育てた分だけ返してくれます。
§2-1 CLAUDE.mdは「憲法」、.claude/rules/は「法律」
憲法には「うちは何屋か」「守ってほしい原則5〜7個」「詳細ファイルへのポインタ」だけ書く、これが黄金比です。
§解説
Claude Codeを起動すると、プロジェクトのルートにある CLAUDE.md を毎回自動で読み込みます。ここに「このプロジェクトは何か」「AIにどう振る舞ってほしいか」を書けば、以降すべてのやり取りに反映されます。位置付けとしては日本国憲法です。大枠の方針、譲れない原則、そして「詳細は各法律に委ねる」というルーティング機能を持ちます。
細かい話——「gitのコミットメッセージ規則」「セキュリティ上禁止のコマンド」「取引先ごとの独自仕様」——を全部CLAUDE.mdに書き始めると憲法が肥大化します。公式に明確な行数基準はありませんが、実用上は100〜200行程度に収めるのが定説です。数百行に膨らむと明らかにAIの性能が落ちます。起動時にCLAUDE.mdを全文コンテキストに乗せるため、ここが太ると目の前のタスクを考える余力がなくなるのです。
そこで法律に当たるのが .claude/rules/ フォルダです。以降、rules/ と略す場合は .claude/rules/ のことです。.claude/rules/ 配下に git.md、security.md、design.md のようにテーマ別にファイルを切り、CLAUDE.mdには「gitの運用は .claude/rules/git.md を見よ」と書くだけにします。必要な作業のときだけ該当ファイルが読まれる仕組みにすれば、コンテキストが節約されます。
多くの経営者が最初にやりがちなミスは、CLAUDE.mdに会社紹介から社員名簿、過去の反省点まで詰め込むことです。気持ちはわかります。「たくさん教えれば、たくさん返してくれるはず」と思うから。逆です。書けば書くほど読まれなくなる。憲法には「うちは何屋か」「守ってほしい原則5〜7個」「詳細ファイルへのポインタ」だけ書く、これが黄金比です。
もう一つ効くのが事業構成・体制・役割をCLAUDE.mdに書き込むことです。「3事業あって責任者はこう」「意思決定はまず社長、次に事業部長」といった情報を書くと、AIが提案する施策や資料の粒度が別物になります。「経営者向け資料」と「現場担当者向け手順書」を勝手に書き分けるようになる、とイメージしてください。
§2-2 スキルは「ポケモンのわざマシン」
教える手間が一度で済む、これがスキルの本質です。
§解説
三層設計の二段目がスキルです。Claude Codeにはスキル機能があり、プロジェクトの .claude/skills/ または ~/.claude/skills/ 配下に <スキル名>/SKILL.md というフォルダとファイルを置くだけで、「特定の作業手順の塊」をAIに覚えさせられます。ファイル冒頭にYAMLフロントマター(name、description など)を書くのがルールで、これが無いとClaude Codeがスキルを認識しません。
イメージとしては、ポケモンのわざマシンです。一度覚えさせれば、次回から「あれやって」と一言言うだけで、AIが手順を再現します。教える手間が一度で済む、これがスキルの本質です。
現場で一番効果が出るのは業務ナビ系のスキルです。例えば、広告運用会社であれば「朝の業務ナビ」「夜の業務ナビ」「レポート作成」の3つをスキル化しておくと、毎日決まった時間に「朝ナビ」と打つだけで、その日の優先タスクが吐き出されるようになります。ある広告運用の責任者は、この構成を作った結果、1日3回の自動吐き出しが回るようになり、担当者に「何やる?」と聞かれる回数が激減しました。
スキル設計で覚えておいてほしいのが、汎用版と個別版の二層構造です。まず「業務全般で使う汎用スキル」を作り、その上に「クライアントA用」「B用」のカスタマイズ版を重ねます。新規案件は汎用版で叩き台を作り、個別要件を追記する。これが最速です。ゼロから毎回作ろうとすると疲弊しますし、個別版だけで運用すると横展開が効きません。
もう一つがGitHub共有です。スキルはただのマークダウンファイルなので、GitHubに上げれば組織内で git clone して共有できます。ある経営コンサル会社では、「毎週水曜日をAIの日に制定し、その週に作ったスキルをGitHubに上げる」運用を導入しました。
半年で数十本のスキル資産が溜まり、新人でも先輩と同じアウトプットが出せるようになった、と報告を受けています。スキルは個人の生産性ではなく、組織の知的資産を蓄積するためのもの、と捉えると視座が上がります。
注意点は一つ、一過性の作業をスキル化しないこと。今月だけの案件をスキル化しても管理コストが増えるだけです。「3回以上繰り返した作業」を目安にしてください。
§2-3 Hooks+HANDOVER.mdでコンパクト自動引き継ぎ
この突破口が HANDOVER.md です。
§解説
Claude Codeで長時間の作業をしていると、あるタイミングでコンパクト(圧縮)というイベントが起きます。会話履歴が長くなりすぎたときに、AIが過去のやり取りを要約して圧縮するのですが、この直後に「え、それはさっき決めたはずでは?」と、AIの認識がズレる現象が頻発します。コーチング現場で最もよく相談される問題のひとつです。
この突破口が HANDOVER.md です。プロジェクトに「引き継ぎ書」というテキストファイルを置き、コンパクトが発生する直前に、いまの作業状況をそこに書き出しておく。圧縮後のAIには「まずHANDOVER.mdを読んでから続きを始めて」と指示すれば、文脈がリセットされずに済みます。原理はシンプルですが、効果は劇的です。
さらに、これをHooksという仕組みで自動化します。Hooksは、Claude Codeが特定のイベント(コンパクト、コミット、セッション終了など)を検知したときに、こちらが仕込んだスクリプトを自動実行してくれる機能です。「コンパクトが起きるたびに、いまの状況をHANDOVER.mdに自動出力する」フックを1本仕掛けるだけで、以降は何もしなくても引き継ぎが回り続けます。
もう一つ、この仕組みを最大限活かすコツが設計書を先に作ることです。プロジェクトの最初に「このシステムは何を作るのか、なぜ作るのか、構成要素は何か」を書いた設計書を用意し、HANDOVER.mdの冒頭に「設計書を見ながらこのHANDOVERを読んで、全体像を把握してから続きを始めてください」と一行書いておく。これで、圧縮後のAIも「木を見て森を見ず」状態にならずに済みます。
この仕組みはグローバルルール化するのがおすすめです。~/.claude/CLAUDE.md に「すべてのプロジェクトでHANDOVER.mdを使え」と書き、Hooksもグローバルに仕込む。新プロジェクトを立ち上げた瞬間から自動的に効きます。育成の成果を1プロジェクトに閉じ込めない、という思想です。
§2-4 DESIGN.mdでデザインルールを明文化する
テキストに書いて、AIにも人間にも同じソースを見せる、これが正解です。
§解説
三層設計の締めが DESIGN.md です。デザインというと「見た目」の話に思われがちですが、ここには資料のトンマナ、字幕の改行位置、レポートの余白、広告クリエイティブの禁止色まで、すべての「見え方の約束事」が含まれます。口頭やチャットで毎回伝えていると担当者が変わるたびに崩れます。テキストに書いて、AIにも人間にも同じソースを見せる、これが正解です。
書くべき項目は、フォントとサイズ、余白、カラーパレット(メイン・アクセント・禁止色)、トンマナ(です・ます/だ・である、絵文字の可否)、字幕の改行ルール、ロゴの取り扱い。ピクセル単位で指定するくらいの解像度が理想です。曖昧に書けばAIは曖昧に解釈します。
このDESIGN.mdの真価は、他のスキルから参照させたときに発揮されます。「資料作成スキル」「レポート用スキル」「広告訴求軸ごとのスキル」の冒頭に「デザインは DESIGN.md を参照」と書いておく。どのスキルで作っても同じトンマナが担保されます。逆に、スキルごとにデザインルールを個別に書き込むと、更新のたびに全スキルを直す羽目になり、必ずズレます。単一の情報源を持つ、これは組織の資料設計の基本です。
指示は簡潔かつ網羅的に。「見出しはNoto Sans JP 24px」「アクセントは #FF6B00、赤色は絶対使うな」「字幕は1行20文字、句読点で改行」——この粒度で行数を絞ってください。
なお、DESIGN.mdはデザイナーだけのものではありません。マーケター、営業、経営者、誰がAIを叩いても同じ品質の資料が出るようにするための、組織の共有規約です。非デザイナーがAIで資料を量産する時代だからこそ、この規約が命綱になります。