Chapter 01

セットアップと環境構築(キックオフ)

ミチガエルAI講座 実践テキスト

§この章を読む前に

図: 事業でAIを使うための「土台4層」
4
オートモード / 自動化
AIが自分の判断で走り続ける
3
常時起動マシン
Mac mini / Studio でスリープを止める
2
プロジェクト分離 + GitHub
案件ごとにフォルダを切ってバージョン管理
1
Claude Code / Codex Desktop
ブラウザ版を卒業する土台
上の層は下がないと成立しない。順番を飛ばさない。

AIコーチングの初回で、私たちが必ず最初に潰すのは「触れる状態を作る」フェーズです。ここを飛ばして、いきなりプロンプト技法や自動化の話に入っても、経営者は必ずと言っていいほど数日で挫折します。理由は単純で、AIを毎日使う「物理的な環境」が整っていないからです。

ブラウザのタブに埋もれたChatGPT、スリープしてしまうノートパソコン、どこに置いたか分からない過去のセッション。この状態のまま「AIを事業に組み込みましょう」と言われても、動きようがありません。

実際の初回コーチングは、私が経営者のパソコンをのぞき込みながら、Claude Codeを開いて、フォルダを作って、cd(ディレクトリ=フォルダを移動するコマンド)を打って、GitHubに繋いで、という手を動かす作業から始まります。教科書的な知識よりも、「今このパソコンで動く状態」を作ることが最優先です。

私はよく「感動する体験がほしい」と言われますが、その前に必ず、地味な環境構築をやってもらいます。ホームランを打ちたい人に、まずキャッチボールと守備練習をやらせるのと同じです。

この章では、AIコーチングの最初の1〜2回で必ず処方する4つの型を扱います。ブラウザ版Claudeを卒業してClaude Code / Codex Desktopに移ること、プロジェクトごとにフォルダを切ってGitHubで管理すること、Mac miniやMac Studioを常時起動してスマホから触れる基盤を作ること、そしてClaude Codeの自動承認モード(オートモード)を安全に使うこと。この4つが揃うと、初めてAIが「事業に組み込める道具」になります。

もう1つ、この教科書全体を通じて頭の隅に置いてほしい前提があります。AIの出力は、必ず自分の目で最後に確認するということです。AIは99%正しくても、1万回動かせば100回は誤ります。事業運営でその100回が致命傷になる場面があります。この章のセットアップも、以降の章の運用も、すべて「人間が最後にチェックする」ことを前提に設計されています。


§1-1. ブラウザ版のClaudeを卒業する

Web版のClaudeとChatGPTは、事業用途としては主役から降ろしてください。

まず結論から言います。Web版のClaudeとChatGPTは、事業用途としては主役から降ろしてください。事業でAIを使うつもりなら、Claude Codeと、ChatGPT側の「Codex Desktop」(OpenAIが提供する、Codexエージェント専用のデスクトップアプリ。ChatGPT本体のアプリとは別物で、ChatGPT Plus等のプランに含まれます)に、今日から移行してください。

なお、Claude CodeはClaudeのProプラン以上で使えます(2026年8月時点。無料プランでは使えません)。詳しい料金プランは第0章の料金表を参照してください。

こう言うと、ほぼ全員が同じ反応をします。「え、ブラウザで十分じゃないんですか」「ChatGPT Plusに課金してるからそれで良くないですか」と。気持ちは分かります。ただ、これはiPhoneとAndroidの差、というレベルの話ではありません。乗り換えるとおそらく最初の1週間で世界が違うことに気づきます。

理由は3つあります。1つ目はコンテキストの容量(AIに1回で渡せる情報量の上限)です。ブラウザ版は、渡せる情報量に厳しい制限があります。Claude Codeは、パソコンの中のファイル、フォルダ、GitHubのリポジトリ(=プロジェクトの保管庫。コードやドキュメントを1つの単位で管理する場所)全体を一度に読み込ませることができます。

「うちの事業構成をまず把握してもらってから相談したい」と思っても、ブラウザ版だと毎回貼り付けが必要で、しかも途中で切れます。2つ目はローカルアクセス(=あなたのパソコン内のファイルを直接読み書きできること)です。Claude CodeはあなたのMacの中のファイルを直接読み書きできます。ブラウザ版はそれができません。「昨日書いた台本を修正して」が、ブラウザ版だとコピペ地獄になり、Claude Codeだと一言で済みます。

Windowsでも、PowerShellで起動したClaude Codeが指定したフォルダ内のファイルを読み書きする、という基本構造は同じです。

3つ目は前提情報の与え方です。Claude Codeはプロジェクトごとに「憲法」となるCLAUDE.mdファイル(プロジェクトの前提・ルールを書いておくと、AIが起動時に自動で読み込む設定ファイル)を置いておけば、起動するたびに自動で読み込みます。ブラウザ版は毎回説明し直しです。

Cursorという開発ツールを併用している方もいると思います。2026年8月時点では、Codex DesktopとClaude Codeを併用するスタイルが主流になりつつあり、Cursor単体で回している方は少数派になってきました。

もちろん使い慣れている方が急いで捨てる必要はありませんが、この教科書では「真面目に一発で正解を出すAI=Codex」と「柔軟に対話しながら育てるAI=Claude Code」の併用を推奨します。私自身、事業運営はClaude CodeとCodex Desktopの2つで99%回しています。

もう1つ強調しておくと、Codex Desktopには「プラグイン」画面があり、各種SaaSとの連携が一気に設定できます。VSCodeと比べても見た目がきれいで、ターミナル(=文字コマンドでパソコンに指示を出すための黒い画面のアプリ。Macなら「ターミナル.app」)も触れます。とにかく、今日インストールしてください。話はそれからです。

Windowsでは、この「ターミナル」にあたる入口としてPowerShellを使います。

「ブラウザ版でもファイルは渡せるのでは?」という反論もよく受けます。確かに、ブラウザ版のClaudeやChatGPTでもファイルをアップロードして読ませることはできます。ただし、これは1ファイルずつのアップロードが前提で、フォルダごと丸ごと参照させたり、AIにその場でファイルを編集・保存させたりはできません。ブラウザ版は「資料を渡して意見をもらう会議室」、Claude Codeは「同じ机で一緒に作業する同僚」だと考えてください。

渡す相手なのか、隣に座って一緒に手を動かす相手なのか。ここが本質的な違いです。Claude Codeは、あなたのMacの中のフォルダを直接開き、ファイルを読み、書き換え、保存し、さらにターミナルでコマンドを実行するところまで一気通貫でやります。「アップロードして渡す」と「同じ場所で一緒に作業する」の差は、思っている以上に大きいです。

Windowsの場合も、PowerShellでプロジェクトフォルダに移動してから起動すれば、同じようにそのフォルダを作業場所として扱えます。

「ブラウザ版にもプロジェクト機能があるじゃないですか、カスタム指示やナレッジも設定できますよね?」という質問もあります。おっしゃる通り、ブラウザ版のClaudeにもプロジェクト機能はありますし、ChatGPT側にもカスタム指示やナレッジ添付があります。ただ、Claude Codeとは決定的に違う点が2つあります。1つ目、AI自身がその記憶を書き換えられません

ブラウザ版のカスタム指示・ナレッジは、人間が設定画面を開いて手で更新するものです。Claude Codeでは、CLAUDE.mdというファイル自体をAIが会話の流れで自分で書き換え、「今日から新しい前提を追加します」と自分で自分を育てていきます。2つ目、ファイルを分割して状況に応じて参照制御する仕組みがありません。Claude Codeは、CLAUDE.mdの下に .claude/rules/git.md .claude/rules/design.md .claude/rules/security.md のように領域別のルールファイルを置いて、必要なタイミングでAIが自分で該当ファイルを読みに行きます。

ブラウザ版のプロジェクト機能は「1つの大きなカスタム指示」なので、この分割と参照制御ができません。この2点を持っているかどうかで、AIが「毎回説明しないと動かない道具」のままなのか、「自社を理解し続ける同僚」に育つのかが分かれます。


§1-2. プロジェクトごとにフォルダを切って、GitHubで管理する

これは地味ですが、後々の事故を防ぐために絶対にやってください。

インストールが済んだら、次はフォルダ整理です。これは地味ですが、後々の事故を防ぐために絶対にやってください。

やることは3つだけです。1つ目、デスクトップに claude という名前のフォルダを作ります。2つ目、その中にプロジェクトごとのフォルダを切ります。たとえば「YouTube台本」「営業資料」「クライアントA」といった感じです。3つ目、Claude Codeを起動するときは、必ずターミナルで cd コマンドで該当プロジェクトのフォルダに移動してから claude を打ちます。

Macの場合:

mkdir -p ~/Desktop/claude/001_test
cd ~/Desktop/claude/001_test
claude

Windows(PowerShell)の場合:

mkdir $HOME\Desktop\claude\001_test
cd $HOME\Desktop\claude\001_test
claude

なぜこれが大事かというと、フォルダを分けずに1箇所で全部の案件を回すと、セッションの記憶が混線するからです。Claude Codeは、フォルダごとに過去のやり取りを記録します。ごちゃ混ぜにすると、「昨日の続きから話したい」と思ってClaude Codeの中で /resume(スラッシュコマンド。

過去のセッションを一覧して再開するための起動命令)と打っても、目当てのセッションが出てきません。全然関係ないクライアントのファイルを勝手に読み始めることすらあります。

そして、書いたコードや設定ファイルは絶対にGitHubで管理してください。「エンジニアじゃないのにGitHub?」と思うかもしれませんが、Claude Codeが自動でだいたいやってくれます。個人アカウントでOKなので、まずPrivateリポジトリ(=あなただけが見られる非公開の保管庫)を作って、そこに置いてください。会社のGitHub組織への統合は後でいいです。まずは運用を始めることが優先です。

GitHubを使う理由は3つあります。1つ目、バージョン管理。AIが書いたコードや設定を、いつでも過去に戻せます。2つ目、バックアップ。パソコンが壊れても消えません。3つ目、共有。将来、社員やパートナーに渡すときに、GitHubにあれば「このリポジトリをクローンしてください」(=GitHub上の保管庫を自分のパソコンにコピーして展開すること)で済みます。手渡しでコピペする世界から卒業できます。


§1-3. Mac Studio / Mac miniを常時起動して、スマホから触れる基盤を作る

結論から言うと、Mac miniかMac Studioを1台買って、事務所か自宅の常時電源の環境に置いてください。

これは全員に必要な話ではありませんが、AIを本気で事業に組み込みたい経営者には、遅かれ早かれ必ず必要になる話です。結論から言うと、Mac miniかMac Studioを1台買って、事務所か自宅の常時電源の環境に置いてください。ノートパソコンの上位機種と同等〜やや上の価格帯、サイズは充電器くらいです。

なぜかというと、「AIをスマホから操作したい」「朝起きたら昨日の売上レポートが自動で届いていてほしい」「移動中に思いついた指示を出したい」といったニーズは、必ず出てくるからです。そのすべての前提が「パソコンが24時間動いていること」です。ノートパソコンだと、スリープしてしまい、朝の自動レポートが動きません。特にWindowsのノートは、勝手にアップデートで電源が切れることが根本原因になります。Macでも、蓋を閉じたらスリープします。

対策はシンプルで、常時電源に繋いだデスクトップ機を1台用意することです。管理部の隅、社長室の脚元、自宅のクローゼットの中、どこでもOKです。電源とネットさえあれば動きます。

常時起動しているWindows PCでも、同じ考え方で「AIが動き続ける場所」を作れます。

設定したら、スマホや外出先のノートから「リモートアクセス」(=離れた場所からそのパソコンを操作する仕組み)で触れます。具体的な設定手段(Mac標準の画面共有、Tailscale=インターネット越しに自分の機器同士を安全に繋ぐサービス、など)は初回では踏み込みません。リモート接続の具体手順は別章で扱います(本章では「常時起動のデスクトップ機を1台用意する」ところまで潰します)。


§1-4. 自動承認モード(オートモード)を使う。ただし危険フラグは踏まない

このときの正解は、Claude Code側の設定で「自動承認モード(オートモード)」に切り替えることです。

Claude Codeを使い始めると、必ずぶつかるのが「毎回Y/nを聞かれる問題」です。Y/nというのは「Yes / no」の略で、「実行していいですか?」の確認プロンプトのことです。ファイルを1つ書き換えるたびに「これで進めていいですか?」と聞かれます。慣れないうちは丁寧でいいのですが、慣れてくると煩わしくなります。

このときの正解は、Claude Code側の設定で「自動承認モード(オートモード)」に切り替えることです。設定ファイルまたはClaude Code内の設定コマンド(バージョンによって呼び方が変わるため、最新はClaude Code自身に「オートモードにしたい」と聞くのが確実です)で、AIが自動で進めてよい操作と、人間の確認が必要な操作を分けて扱ってくれるようになります。安全性と速度のバランスが取れた設計です。

一方、絶対に使わないでほしいのが --dangerously-skip-permissions という起動オプションです(-- で始まる、コマンドの後ろにつけて挙動を変える追加指示のことを「オプション」または「フラグ」と呼びます)。名前に「dangerously」(危険な)と書いてある通り、これを付けるとClaude Codeが全部のY/nを勝手にYesにしてしまいます。これで何が起きるか。たとえば、AIが誤って rm コマンド(remove の略で、ファイルを削除するUnix系コマンド。

実行すると基本的にゴミ箱にも入らず消えます)を実行しようとしたとき、確認なく削除されます。事業データが消えます。取り返しがつきません。

私自身、--dangerously-skip-permissions は使いません。オートモードで十分です。それでも、rm コマンドが画面に見えたときは、Yesを押すのを一瞬躊躇う癖をつけてください。「今、何を消そうとしているのか」を頭で追う。これだけで防げる事故が山ほどあります。

もう1つ、安全対策として大事なのが「作業ディレクトリを1階層下に切る」ことです。ディレクトリはフォルダのことで、「1階層下」は「デスクトップ直下ではなく、その中に作ったフォルダの中」というイメージです。デスクトップのど真ん中でClaude Codeを起動すると、AIが誤って周辺のファイルを触るリスクがあります。

必ず ~/Desktop/claude/プロジェクト名/ のように、1階層深いところで起動してください(~ はホームフォルダ=ユーザーの個人領域を表す記号です)。仮に何かが暴走しても、被害範囲はそのフォルダ内に限定されます。

Windowsでは、~ はおおむね C:\Users\ユーザー名 に相当し、PowerShellでは $HOME\Desktop\claude\プロジェクト名\ のように書けます。