結論(即答): AIデータ基盤は「記録・整理・ルール」の3層で作る
AIは記憶を持たないので、議事録・チャット・AIとの会話を1か所に自動で貯め、AIが読みに行ける状態を作ります。仕組みは「人が何もしなくても貯まる記録」「毎朝AIが書き直す整理」「失敗をルールに変える学習」の3層で、ツールはすべて既製品です。
この資料の目的と読み方
ミチガエルで1年かけて組んだ「AIが会社の文脈を読めるデータ基盤」を、他社が再現し、商品化するための設計図です。提携先と合意した「基盤をエンジニアに渡し、まず代表者の環境を作る」の最初の1冊にあたります。
| 読む人 | 読んでほしい章 |
|---|---|
| エンジニア(作る側) | 全体像の設計図、層1〜層3、入力源の取り込み方、構築の難易度 |
| 営業・代表(売る側) | 一言でいうと、ビフォーアフター、費用の実額 |
資料は3部に分かれます。本書は第1部です。
- 概念と設計図(本書): 何を、なぜ、どういう形で貯めているか
- 再現手順(次の資料): エンジニアが代表者の環境を作るためのツール一覧・設定・導入順
- 分岐表(別紙): 顧客のチャットツール×議事録ツールの組み合わせごとの構築パターンと価格感
個別の会社名・人名は載せていません。費用は実額です。
一言でいうと
「AIが、この会社の文脈を読める状態」を作るデータ基盤です。議事録・チャット・AIとの会話・毎日の作業ログを1か所に自動で貯め、ノート同士をつなぐ。それだけです。
AIは記憶を持ちません。1か月前の会話は忘れ、人間も細部を忘れます。基盤があると、AIが「読みに行ける」ので、半年前の判断も、1年前の施策も、その場で根拠付きで答えられます。質の高い出力は、人間がAIに「餅」を与え続けられるかで決まります。
営業トーク3行
- 基盤が無いと: 引き継ぎのたびに説明が要る。AIに頼んでも「毎回初対面」の答えしか返らない。広告原稿も営業リストも、自社の過去を踏まえない汎用品になる。
- 基盤があると: 「この案件、1年で何をやった?」「この人は以前何を得意としていた?」に即答。新規事業も「過去にこれをやっていたから、この延長でできる」と提案してくれる。
- 作り方: 最初の2か月で議事録とチャットの自動取り込みを入れ、3か月目から読みに行かせる。分岐は「チャットツール×議事録ツール」の組み合わせだけで、構築自体は難しくない。
「何でもできる」とは言わない。売るのは「記憶が残ることで差が出た具体例」です(後半のビフォーアフター)。
全体像の設計図
全体像は、下から「層1: 自動記録」「層2: 自動整理」「層3: 判断の記録と学習ループ」の3層(記録・整理・ルール)が積み上がる構造です。入力は議事録・チャット・AIとの会話・作業ログの4種です。
左の入力は人が何もしなくても貯まり、中央の3層で整理され、右の出力はClaude Codeが貯まったものを読んで作ります。出力はまた会話ログとして左に戻るので、使うほど基盤が育ちます。
層1: 自動記録(人は何もしない)
AIとの会話が1ターン終わるたびに、その内容が自動でデイリーノートに追記されます。本人がメモを取る必要はありません。これが全ての土台です。
| 何が起きる | いつ | どこに溜まる | 動かしているもの |
|---|---|---|---|
| 会話の要点(何をした・何を決めた・次に何をする)をセッションごとに追記 | 毎ターン | Vault 01_01_デイリーノート/2026年/2026-10-01.md |
Claude Code の Stop hook(会話が止まった瞬間に走る小さなプログラム。要約は安価なモデルで行う) |
| 会話の引き継ぎメモ(HANDOVER)を生成 | 会話終了時・圧縮前 | プロジェクトフォルダと ~/.claude |
同じ hook |
| 決定・好み・技術選定を「記憶」として保存 | 会話終了時 | ~/.claude/projects/{プロジェクト}/memory/ |
同じ hook(明言されたものだけ。機密と一時的な作業状態は保存しない) |
| 前日のデイリーノートを人が読める形に整形 | 毎日01:30 | デイリーノートの冒頭 | 定時ジョブ(launchd) |
ポイントは3つです。
- 記録の単位は「セッション」。同じ会話が続く限り同じブロックを上書きするので、ノートが膨れません。
- 記録は「何をしたか」だけでなく「何を決めたか」を含みます。後でAIが読むときに効くのはここです。
- プロジェクトごとの記録(
02_プロジェクト/)は、デイリーノートから層2が整理して流し込みます。人がプロジェクトフォルダを更新する必要はありません。
デイリーノートの中は「自動ブロック(hookが管理)」と「手書き領域」を印で分けています。人が追記しても自動更新に消されません。
層2: 自動整理(毎朝、AIがノートを書き直す)
毎朝5時に、前日のデイリーノートと受信箱(議事録・クリップ・他のAIとの会話)をAIが読み、「技術・ノウハウ」をテーマ別のwikiページに書き直します。同じテーマがあれば新規作成ではなく既存ページを更新するので、日々の記録が「読み返せる知識」に変わります。この層は人もClaude Codeも直接書きません。
| ジョブ | いつ | すること |
|---|---|---|
| ingest(本体) | 毎朝05:00 | 前日のデイリーノート+受信箱 → 04_技術ドキュメント/ のwikiを更新。用語集も更新 |
| 週次ノート | 月曜06:30 | 1週間のデイリーを束ねた週次ノートを生成 |
| 月次ノート | 毎月8日06:45 | 週次ノートを束ねた月次ノートを生成 |
| 週次Lint | 月曜 | リンク切れ・孤立ノート・重複を検出して通知 |
| Tips整理 | 月曜07:00 | 散らばったAI学習メモをテーマ別wikiに束ねる |
| CRMアラート | 毎日07:20 | 案件カルテの期日・放置日数を判定し、デイリーノートとChatworkに通知 |
| バックアップ | 毎日23:30 | VaultをGitHub(非公開)へ。失敗したらSlackに通知 |
なぜこの層が要るか: デイリーノートは時系列の「日記」で、そのままでは「あの時の解決策は?」に答えにくいからです。テーマ別に書き直されたwikiがあると、AIは「同じエラーで詰まったら過去の解決策を先に見る」という動きができます。
失敗したときは黙らずに知らせます(ChatworkのDMまたはSlack)。「監視の無い自動化は作らない」がルールです。過去に7日間静かに止まっていた事故からできたルールです。
層3: 判断の記録と学習ループ(人とAIが書く)
設計判断・デプロイ結果・フェーズの進行だけは、Claude Codeが作業の区切りでプロジェクトフォルダ(02_プロジェクト/{番号}_{名前}/)に書きます。「なぜそう決めたか」は自動記録では拾えないので、ここだけは意図して残します。
この層の本体は「学習ループ」です。失敗が起きたら、同じ失敗を二度としないようにルールと記憶に変えます。
| 起きたこと | 残す場所 | 次回どう効くか |
|---|---|---|
| AIが本人の意図を誤解した(例: 「漫画広告を作る」をスライドで作った) | プロフィールの「誤解アンチパターン集」(現在45件) | 全ての会話が開始時に読むので、同じ誤解をしない |
| 事故(例: 未許可の外部送信、自動化が黙って止まった) | 事故ログ → ルールファイルに1行追記 | ルールは毎回読まれる。経緯は事故ログに退避し、ルールを膨らませない |
| 本人の好み・決定(例: 「話題が続く限り会話を切るな」) | 自動メモリ(プロジェクトごと) | 会話開始時に要点だけ注入。月次で棚卸し |
| 役に立った手順 | スキル(手順書)として保存 | 次から「あのやり方で」と言えば再現できる |
この1年で学んだこと: ルールは事故からしか生まれません。最初から完璧なルールを書くより、「起きたら必ず記録する」仕組みの方が強いです。
入力源の取り込み方
「何を読ませるか」が基盤の価値を決めます。ミチガエルでは次の5種類を自動で取り込んでいます。取り込み先は全てVault(Obsidian)か、AIが直接読めるローカルの置き場です。
| 入力 | 取り込み方 | 溜まる場所 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 議事録(tl;dv) | 毎日01:00の定時ジョブがtl;dvのAPIから取得 | 05_会議記録/ |
IDで重複を排除。tl;dvが入らなかった会議は例外処理が必要 |
| 議事録(Plaud・対面録音) | 毎朝のingest前に同期。原文+自社用語集を渡して自前で要約 | 受信箱 → wiki | サービス側の要約は使わない(固有名詞が崩れる) |
| Chatwork(過去全ログ) | 公式エクスポートを検索用DBに変換(2,257ルーム・約147万件) | ローカルDB+08_Chatworkログ |
APIは直近100件しか取れない。過去分はエクスポートが必須 |
| Chatwork(日々) | 定期ポーリングで新着を取得 | ローカル | Webhookはルーム数に上限があるためポーリング方式 |
| 他のAIとの会話(Discord上の別エージェント) | 前日分を毎朝書き出し | 受信箱 → wiki | ChatGPT等の外部チャットも同じ要領で持ち込める |
| Claude Codeの会話ログ | 層1の自動記録(上記)に加え、15分ごとに全会話の新着を要約して「横断コンテキスト」を作る | キャッシュ(36時間で自動削除) | 別の会話で「あれどうなった?」と言っても通じる。導入前0/5→導入後5/5で話題に到達 |
分岐は少ない。顧客ごとに変わるのは「チャットツール(Chatwork・Slack・LINE WORKS・Teams)」と「議事録の取り方(tl;dv・Google Meet録画・Zoomクラウド録画)」の組み合わせだけで、貯める場所と読ませ方は共通です。組み合わせごとの構築パターンは別紙「分岐表」にまとめます。
AIが「育つ」仕組み
基盤は作って終わりではなく、使うほど資産が増えます。増えるものは4つです。
- 技術wiki: 毎日の作業から、解決策と設定値がテーマ別に蓄積(層2が自動で)。
- スキル(手順書): うまくいった手順を「次からこのやり方で」と呼び出せる形に保存。現在約70本(例: 3社コードレビュー、コピー競作、SEO設計、動画を「見る」、音声生成)。作業ログから完全自動でスキルが生えるわけではなく、「スキルにして」と頼むか、繰り返し作業をAIが見つけて提案する形です。
- プロフィール(本人理解): 誤解が起きるたびに「こう言われたらこう解釈する」を追記。1年で45件。モデルを更新しても理解が落ちないよう、回帰テスト(53問)を持っています。
- ルール: 事故が起きたらルールと1行追記。常時読まれるルールは約18千トークンに収め、詳細は「該当作業のときだけ読む」別ファイルに退避。
1年続けた結果、Vaultのプロジェクトは100を超え、ノート同士がリンクでつながっています。AIは「4月1日に何をしていたか」をデイリーノートから、「この案件の経緯」をプロジェクトフォルダから、「あのエラーの直し方」をwikiから読みに行けます。
注意: 育つのは「記録されたもの」だけです。口頭で決めて記録しなかったことは、AIにとっては起きていないことになります。だから層1の「何もしなくても溜まる」が最重要です。
ビフォーアフター(営業資料の素材)
基盤の有無で差が出た実例です。すべてミチガエルで実際に起きたことです。
| 場面 | 基盤が無いと | 基盤があると |
|---|---|---|
| 案件の引き継ぎ | 担当が変わるたびに経緯を説明。説明漏れがそのまま事故に | 「この案件、この1年で何をやった?」に、最初のきっかけから直近の施策までAIが即答 |
| 別部署の話題を持ち込む | チャットを遡ってコピペ | 別の会話で「あれどうなった?」と言うだけで通じる(横断コンテキスト。到達率0/5→5/5) |
| 同じエラーで詰まる | 毎回最初から調べる | 「過去の解決策を先に見る」がルール。技術wikiから設定値ごと引く |
| 新規事業の壁打ち | 毎回前提を説明してから議論 | 「以前これをやっていたから、この延長でできる」と自社の歴史を踏まえて提案してくる |
| 広告コピー・LP | 汎用的な文面。承認済みの訴求や規制の制約を毎回伝え直す | 案件ごとのNG表現・承認済み数値・過去の勝ちパターンを読んでから書く。出稿前の規制点検も案件別DBから |
| 経営数値の質問 | スプレッドシートを開いて探す | 「今月の○○は?」で、数値の所在マップからAIが取りに行く(古い数字を語らないルール付き) |
| 定例の準備 | 前回の議事録を読み返す | 議事録が自動で入っているので、「前回の定例で何を話した?今日は何を話す?」と聞くだけ |
| AIが意図を取り違える | 同じ誤解を繰り返す | 誤解が記録され、全会話が開始時に読む。同じ誤解は起きない |
| 自動化が止まった | 気づくまで数日~数週間 | 失敗は必ず通知。「監視の無い自動化を作らない」がルール |
営業で使うときの注意: 「何でもできる」ではなく、上のうち相手の業務に近い2〜3個を選んで話す方が伝わります。引き継ぎと定例準備は、どの会社にも当てはまります。
応用編(概要のみ)
データ基盤の上に、ミチガエルでは次の運用を乗せています。代表者の環境に最初から入れる必要はありません。基盤があれば後から足せます。
| 仕組み | 何ができるか | 備考 |
|---|---|---|
| 複数AIの役割分担 | 脳(判断・対話)は最上位のClaude、調査や実装は安価なモデルやCodexに委譲。制作物は3社(Claude・Grok・DeepSeek)に競作させて審査 | 費用と品質の両立。モデルの役割表を単一の正として管理 |
| スマホからの並行操作 | 案件ごとの会話(18前後)をMacで常時起動し、スマホから指示。外出先からでも進む | Claude CodeのRemote Control機能 |
| 司令台(監視画面) | 全会話を「作業中/返事待ち/完了」で一覧。判断待ちだけを本人に上げる | 自前のローカルダッシュボード |
| 定時ジョブ | 週次リサーチ記事の生成・公開、動画自動生成、予約データ同期など | 失敗時は必ず通知。外部への送信は承認制 |
| 外部送信の承認制 | Chatwork・Slack・LINE等への送信は、毎回本人が文面を見て許可 | 過去の無断送信事故から生まれたルール |
ここは「会社によって必要なものが違う」部分です。商品化するなら、基盤(層1〜3)を共通パッケージにし、応用編は個別開発の提案に分けるのが自然です(「共通化したものを売り、個別具体は開発提案」の形)。
費用の実額(2026年9月)
9月のAI関連費用は合計約97万円でした(会社カードの明細から集計。広告費は含まない)。この金額で、上の基盤と応用編の全部、および広告制作・動画生成・記事生成を含む制作業務を回しています。専任のエンジニアはいません。
| サービス | 9月(円) | 用途 |
|---|---|---|
| Anthropic(Claude) | 342,456 | 脳。複数アカウントのサブスク+API |
| OpenAI | 280,756 | ChatGPTサブスク+API従量(うち約19万円は登録先を確認中) |
| Manus | 61,046 | 調査・動画分析のエージェント |
| xAI(Grok) | 53,256 | 競作・レビュー |
| Vercel | 53,000 | 公開サイト・ダッシュボードのホスティング |
| Sakana AI(Fugu) | 35,480 | 重要判断のアンサンブル要員 |
| Supabase | 34,666 | データベース |
| Google Cloud | 31,620 | API(検索・音声・シート連携) |
| Higgsfield | 30,371 | 実写画像・動画生成 |
| ElevenLabs | 17,844 | 音声生成 |
| その他(Railway・Notion・Render・CapCut・Hailuo・Cloudflare・GitHub) | 29,258 | インフラ・編集 |
| 合計 | 969,753 |
「データ基盤だけ」に必要な費用は、このうちClaudeのサブスク1アカウント(約3.5万円)と、要約用の安価なAPI(月数千円)、Obsidian(無料)です。残りは制作と応用編の費用です。
注: サービス名で拾っているため、Vercel・Supabase等にAI以外の用途が混ざる可能性があります。
構築の難易度と所要期間の目安
基盤の構築自体は難しくありません。ツールはすべて既製で、書くのは「つなぐ部分」だけです。難しいのは「記録され続ける状態を保つ」運用の方で、そこは監視と通知で担保します。
代表者の環境を作る場合の工程(エンジニアが作業する前提):
| 週 | やること | 終わったときに見えるもの |
|---|---|---|
| 1週目 | ObsidianとClaude Codeを入れ、層1(会話の自動記録)を動かす | デイリーノートが勝手に増え始める |
| 2週目 | 議事録(tl;dv)とチャット(Chatworkの過去エクスポート+日々の取り込み)をつなぐ | 「先週の定例で何を話した?」に答えられる |
| 3〜4週目 | 層2(毎朝の自動整理)と通知を入れる。プロジェクトフォルダを案件単位で起こす | 案件ごとの経緯がたまり始める |
| 2か月目 | プロフィール(代表者の事業・得意・判断様式)と誤解の記録を始める | AIの提案が「その人向け」になってくる |
| 3か月目 | 読ませて使う。引き継ぎ・定例準備・新規事業の壁打ちでビフォーアフターを自分で体感 | 営業で語れる実例が手元にできる |
当たりを付けておくべき制約:
- ChatworkのWebhookは取れるルーム数に上限があり、APIは直近100件まで。過去分はエクスポートで持ち込むか、「今からの分しか貯まらない」と先に説明する。エンタープライズプランは組織全体が対象になり、後から落とせないので勧めない。
- tl;dvが入らなかった会議の例外処理(誰の録音を正とするか)を決めておく。
- 要約・生成を誰のAPIで動かし、費用を誰が持つかを最初に決める(ミチガエルは本人のサブスクと自社のAPI)。
- 「書類フォルダ」などmacOSの許可ダイアログを放置すると全自動化が止まる。初期設定でフルディスクアクセスを付けておく(9/28に実際に起きた)。
次の資料: 「再現手順」(ツール一覧・設定ファイルの場所・導入順)と「分岐表」(チャットツール×議事録ツールの組み合わせと価格感)を別で用意します。
シリーズ
AIデータ基盤の作り方は3部構成です。